F

古書店街の片隅にひっそりと看板を出しているその喫茶店は地下に店を構えていた。黒檀で統一されたテーブルと椅子は内装の欠かすことのできない一部を構成しており、調和のとれた明度の低さが歴史の重みを含んでたたずんでいる。カウンターとテーブル席が三…

不適

高二の夏、夏休みに入る少し前のことだった。夕暮れ時の教室は蒸し暑く、長く伸びたぼくらの影と遠くから聞こえる運動部の掛け声だけが、今でも奇妙に生々しく思い出される。 おかしなことだ。本当なら、杉村さんの顔や声色を思い出すべきなのだろうに。けれ…